あらすじ
必要とされることを、愛だと思っていた。
小伯爵家の令嬢リゼットは、神託により王弟セドリックへ嫁ぐ。
けれど王宮で待っていたのは、花嫁としての幸福ではなかった。
夫は夜明けごとに、別人のように変わる。
冷たい執政者、警戒する騎士、甘い詩人、幼い少年。
リゼットは毎朝、夫が誰なのかを見極める。
薬を選び、食事を変え、禁句を避ける。
面会の順を整え、祈りの言葉まで直す。
そのすべてを、黒革の記録帳に書き続ける。
王宮は、何も起きない朝を喜んだ。
けれど、その静けさの裏で、リゼットの名前は薄れていく。
妻だから耐えるべきだと、誰も疑わなかった。
毎朝別人になる夫を支える記録帳。
それがなければ、この結婚は一日も保たない。
だが、その帳面に書かれていない痛みを、誰が知るのか。
神託は、本当にリゼットへ耐えろと命じたのか。
必要とされることは、本当に愛なのか。
記録帳を閉じた彼女が、次に選ぶ朝は、誰のためのものなのか。