あらすじ
その日、俺は先頭車両から線路際の作業現場を見ていた。
作業員がいる。列車見張員もいる。
だが、そこにあるはずのものが見えなかった。
「白旗がない!」
思わず声を上げそうになったその違和感が、俺を二十年前の記憶へと引き戻す。
失業給付の期限に追われ、ハローワークで見つけた「列車見張員」という仕事。
線路際で白旗を振っているだけ。最初は、そんな仕事に見えていた。
しかし現場に立って初めて知る。
見張るのは列車だけではない。作業員を見る。旅客を見る。空気を見る。異変を見る。
そして、何かがおかしいと感じた瞬間に、声を出さなければならない。
怒鳴られ、笑われ、眠気と寒さに耐えながら、それでも線路際に立ち続けた日々。
そこには、派手な英雄も、分かりやすい感動もない。
ただ、何事もなく一日を終えるために、それぞれの持ち場を守る人間たちがいた。
これは、鉄道を止めないために白旗を振っていた者たちの物語。
そして、白旗の向こう側にあった、名もなき現場の記憶である。