あらすじ
神に選ばれた勇者はいなかった。
魔法の才能もない。
伝説の血筋もない。
授かった加護もない。
あるのは、折れない意地と、誰よりも積み重ねた努力だけ。
北の小村ハルノに暮らす青年アルトは、剣も魔法も未熟なまま、勇者候補として王都を目指すことになる。
村人たちは彼を笑った。
空剣の勇者《からけんのゆうしゃ》。
何も斬れない剣を振る、勇者ごっこの道化。
そんな侮蔑の名を背負い、アルトは旅立ちの日に、古物売りから壊れた銀の羅針盤を買う。
針は北を指さない。
だがその羅針盤は、やがて七つの国、三つの帝国、錬金術都市、聖教国、魔族領に隠された歴史へと彼を導いていく。
王国には王国の正義があり、
帝国には帝国の理想がある。
異教徒には異教徒の祈りがあり、
魔族には魔族の守るべき土地がある。
敵は味方となり、
味方は敵となる。
旅の途中で出会う師匠たちは、剣、知識、生存術、信仰、そして人を見る目をアルトに教えていく。
やがて彼は挫折し、大切な仲間を失い、剣を折る。
それでも再び立ち上がった時、壊れた羅針盤は初めて、本当の目的地を指し示す。
これは、特別な力を持たない青年が、世界を知り、人を知り、自分の弱さを知りながら、いつか本当の意味で勇者と呼ばれるまでの物語。