あらすじ
七月の東京は、息をするだけで肺が焼けそうなほど暑かった。
けれど佐倉美緒は、婚約者の桐谷悠真に「世界は氷河期に入った」と信じ込まされ、偽りの終末の中へ閉じ込められた。
悠真は寝室を密閉し、偽の災害情報を作り、業務用エアコンとドライアイスで極寒の部屋を作り上げた。美緒は恐怖と信頼の中で、少しずつ凍えていく。死の直前、彼女はたった一着のダウンコートまで悠真に渡し、「私の代わりに生きて」と願った。
だが魂が身体を離れた瞬間、美緒が見たのは、扉の外に広がる真夏の陽射しだった。
終末など、どこにもなかった。悠真と親友の白石雪乃は隣の部屋で食べ、飲み、笑いながら、美緒の死を待っていた。彼女の預金と、文京区の分譲マンションを奪うために。
ゴミ箱に捨てられた美緒は、やがて怨霊となる。
彼らが氷河期を作ったというのなら、今度は美緒が、この真夏の部屋を本物の氷の牢獄に変える。
開かない玄関。暴走するエアコン。途切れた電波。目の前にあるのに越えられない生への出口。
裏切り者の二人は、少しずつ絶望の底へ引きずり込まれていく。
翌日、警察が扉を開けたとき、そこには東京で最も奇妙な密室冷凍事件の現場が広がっていた。