あらすじ
大学進学のため上京した杉浦智也は、二か月前に亡くなった兄・亮介が暮らしていた古いアパートの一室で暮らし始める。
兄は大手企業で働き、父母から「ちゃんとしていた」と言われる人だった。
けれど智也は、兄のことが嫌いだった。
部屋には、兄の生活の跡が少しだけ残っている。
カーテン、傘、食器、延長コード。
洗面台の棚には、一本のカミソリ。
古い部屋は、思ったより使いやすかった。
そのことが、智也には少し嫌だった。
兄のことを分からないまま、智也はその部屋で朝を迎える。
顔を洗い、鍵をかけ、大学へ行く。
少しずつ、自分の生活がそこに増えていく。
そしてある朝、急いで身支度をする智也の手が、棚の奥へ伸びる。