あらすじ
他人の熱量というものは、どうしてあんなにも騒がしいのだろう。
新学期の埃っぽい高三の教室。他クラスの男子がどうだの、若い世界史の先生が格好いいだの、そんな身近な『コイバナ』に、柚木陽菜(ゆずき・ひな)は一ミリもついていけない。
「おい柚木。また魂抜けてんぞ」
そう言って、消しゴムの角で頭を小突いてくる隣の席の瀬尾蓮(せお・れん)。
いつも意地悪ばかり言うくせに、本当は誰よりも早く自分のピンチに気づいて、半分以上の重い荷物を持ってくれるぶっきらぼうな男の子。
周囲には「瀬尾のやつ、柚木こと好きすぎだろ」とバレバレなのに、恋愛感情に徹底して無自覚な陽菜だけが、その好意に全く気づかない。
――けれど、瀬尾には告白できない理由があった。
卒業すれば地元を遠く離れ、簡単に連絡すら取れなくなる進路へと進むことが決まっていたから。
「気持ちを伝えてあいつを縛るなんて、あいつの未来を狂わせるだけだ」
優しすぎる自制心のブレーキをかけ続ける瀬尾と、ただ「少し口の悪い、隣の席のアイツ」とだけ思っている陽菜。
順当に進み、順当に終わっていく、高校生活の春夏秋冬。
これは、最後まで想いを飲み込み続けた不器用な男の子と、彼がいなくなって初めて「あれが恋だった」と気づいた女の子の、最もほろ苦く、美しい、遅すぎたサヨナラの物語。
――もしもいつかどこか偶然に、また君と出会えたら。