あらすじ
「呼べない夏」が、形になる。
2015年。
スマートフォンは普及し始めていたものの、人と人との距離には、まだどこかアナログな温度が残っていた時代。
高野山から熊野本宮大社まで、小辺路の険しい山道を自分の足だけで歩き通した夏。照り返す陽射し、足の裏に刻まれた疲労、そして歩ききった者だけが知る静かな充足感を胸に、旅は終わりへ向かっていた。
その帰り道、新宮の小さな喫茶店で、一人の旅人と出会う。
名前も知らない。
住む街も知らない。
それでも、あの夏だけは確かに同じ時間を歩いた。
これは、熊野古道を歩いた旅の記録であり、二度と呼ぶことのできない、ひと夏の記憶を綴った私小説。