あらすじ
「給料、ない」
「いいです」
「住む場所も、ここだけ」
「いいです」
「……なんで?」
「なんとなく、いい本棚だと思ったので」
水路が街の血管となった水都、アクアヴェナ。
街の外れにある古書店『霧ノ底書店』は、本を売るだけの店ではない。
水路に落としたものを探してほしい。
行方の分からない誰かに伝言を届けてほしい。
夜の水面に現れる"何か"を確かめてほしい。
そんな、どこにも頼めない困りごとが、この店には持ち込まれる。
店を切り盛りするのは二人の人外。
「何者かになりたい」と願い、今日も違う自分を探し続けるレイ。
変わることを恐れながら、静かな書店を守り続けるアンバー。
性格も、生き方も、何もかも正反対の二人は、今日も水都を歩く。
忘れられたもの。 消えてしまったもの。 それでも、どこかに残っているもの。
これは、忘れることで生き延びた者たちが、忘れたものの形だけを抱えて、もう一度出会い直す物語。