あらすじ
①あらすじ
海辺の町・河和で、祖母の薬膳茶楼を手伝うともみは、薬草の匂いが染みついた「苦い箱」を開けられずにいた。そこへ、保護区と予約地の境界を調べるため、都から巡検見習いの龍来がやって来る。
地図を頼りに急ぐ龍来は、茶楼のお通しを証拠品と勘違いし、ともみと衝突する。だが、祖母の手紙、廃墟の窓に残された模様、海風で鳴る方位標識、流鏑馬の古記録がつながるにつれ、二人は河和に隠された約束へ近づいていく。
苦い箱が守っていたのは、土地の権利書ではなく、薬草の種と先代たちの記憶だった。ともみは祖母の味を追うだけの台所から、自分の料理で町を動かす台所へ踏み出す。龍来もまた、都で認められるための手柄ではなく、目の前の人を守る道を選ぶ。
薬膳のお通しから始まる、海風と手紙と恋の和風ロマンス。
②登場人物の紹介
ともみ
海風茶楼で薬膳料理を作る若い料理人。祖母の味に追いつこうと毎朝粥を仕込みながら、客の言葉や食べ残しから謎の糸口を見つけていく。怖い噂が苦手でも、必要な朝には厨房に立つ。
龍来
都から戻った巡検見習い。保護区と予約地の調査を任され、地図と規則を頼りに動く。最初は焦って空回りするが、ともみの茶楼に通ううちに、皿の向き、手紙の余白、人の沈黙を読むようになる。
優樹
町の絵師兼看板書き。献立札や報告書の言葉を整え、ともみと龍来の間にある言葉にならない想いを見守る。
未波
河和の名家の娘。町の評判を守ろうとして保護区の騒ぎを伏せようとするが、終盤では町民の前で不利な事実も語る。
貴道
旧家の当主代理。家格と面目に縛られ、偽文書を持ち込んだ商人の名を黙っていた。町の食卓と証文を前に、自分の沈黙を認める。