あらすじ
祭壇の白い花は、五年間、一度も枯れたことがない。
誰が替えているのか、この家の誰も知らない。
伯爵家の後妻マレーナは、今日も静かに給仕をする。
夫が語るのは、亡き先妻の思い出ばかり。
先妻ならこうした、と比べられて五年になる。
けれど、社交界が噂する先妻の遺産は、どこにもない。
あったのは、先妻が遺した借金の山だった。
それを返し続けてきたのは、名前も呼ばれない後妻だ。
質入れされた形見を、ひとつずつ買い戻す。
義理の娘の学費を、気づかれないまま工面する。
命日の祭壇に、白い花を絶やさない。
最後の借用書の期日は、命日の翌週。
完済のその朝、彼女は離縁状と、整えた帳簿だけを残す。
比べられ続けた家で、亡き人を悼んでいたのは誰だったのか。
祭壇の花が枯れはじめたとき、あの家は何に気づくのか。