あらすじ
とある冬の夜。一人の男が人けのない道をとぼとぼと歩いていた。ぽつぽつと立つ街灯は闇を押し返すにはあまりに心細く、根元だけを照らしている。周囲に並ぶ建物は黒く塗られ、巨大な岩の塊のように沈黙していた。
冷たい風が吹き抜けるたびに電線が揺れて鋭い音を奏でた。男はぶるりと肩を震わせ、首をすくめて小走りする。だが数十歩も進まないうちに息が上がり、速度を落として結局また重たげな足取りで歩き続けた。
と、その横を一台のタクシーが静かに追い抜いていった。男はわずかに眉を上げ、去っていく車体へちらりと視線を向けたが、すぐに自分とは縁のないものだとばかりに顔を伏せた。
だが、そのときだった。タクシーは赤いテールランプを灯して停車し、それからゆっくりと後退してきた。
「もし、この寒い夜にどちらまで向かわれるご予定ですか?」