あらすじ
この町では、何かがおかしい。
ベンチは気づくと増えている。電話はかかっていないのに鳴り続ける。存在しないはずの写真が、毎日同じ場所に現れる。だが誰も、それを「異常」とは呼ばない。
ある女子高生は、町に起きる小さな違和感に気づく。
しかしその違和感は、記録に残すたびに少しずつ書き換えられていく。“見たもの”は消えない。ただし“見たことにされる内容”だけが変わっていく。
やがて彼女は知る。この町では、出来事は起きていない。
代わりに起きているのは—…。現実の整合性を保つための「修正」そのものだということを。
道に立つ子どもは事故を防いでいるのではない。消えない落書きは誰かの悪戯ではない。鍵のない家は、出入りするために存在していない。それらすべては、ただ一つの目的のために存在していた。
「世界を、完成させないため」
町はやがて一つの声を持つ。町内放送は通知ではなく、思考の同期となり、住人は個人ではなく“認識の分割結果”へと変わっていく。そして最後に現れる“記憶回収人”は語る。
これは記録ではない。記憶でもない。これは—…忘れても壊れない世界を作るための、事後生成ログだ。
しかしそのとき、ひとつの矛盾が残る。もしこの世界が「忘却のため」に作られているのなら、いったい誰がそれを“記録している”のか。
そして、まだ回収されていないものがあるとしたら—…それは本当に「過去」なのだろうか。