あらすじ
柴田源吾、三十五歳。
日本の小さな町工場で、鉄を削り、熱し、研いできた職人である。
異世界へ迷い込んだ後は、山奥の工房でエルフ助手リュシアと静かに鍛冶をしていた。
そんなある日、血まみれの女が工房へ墜落してくる。
人間軍の武器職人だと誤解され、突然斬りかかられたゲンは、咄嗟に試作品の剣を盾代わりに構えた。
すると――
あらゆる攻撃を弾くはずの女の魔鎧が、真っ二つに裂けた。
「貴様……只人ではないな」
「買い被るな。俺はただの鍛冶屋だ」
しかも、その女の正体は魔王ルヴィア。
彼女が率いる魔王軍は領土の八割を失い、滅亡寸前だった。
下級兵の剣は折れる。
鎧は壊れても直せない。
補給は届かない。
弱い兵から使い捨てにされる。
捕らえられた魔族の子供たちは、人間側の鉱山で奴隷として酷使されている。
ルヴィアはゲンに頭を下げた。
「我が軍を勝たせてくれとは言わぬ。滅びぬための道具を、作ってほしい」
だが、ゲンは剣士ではない。
魔法も使えない。
まともに戦えば一秒で死ぬ。
彼が知っているのは、町工場で叩き込まれた現場の理屈だけだった。
硬いだけの金属は折れる。
手入れできない名剣は役に立たない。
同じ品質で作れなければ軍は支えられない。
壊れた道具は、現場で直せなければ意味がない。
だからゲンは「最強の剣」を作らない。
誰でも同じ角度で研げる治具を作る。
魔力の弱い兵でも扱える“折れない短槍”を作る。
壊れても部品交換できる“直せる鎧”を作る。
泥道でも補給を止めない荷車を作る。
その結果――
今まで全滅していた小隊が、生きて帰ってきた。
「大工房長。槍が……折れませんでした」
「そうか」
「初めてです。武器を信じて、退けたのは」
一方、人間側では異変が起き始める。
権威を誇った聖剣ギルドの剣が折れ、
勇者の鎧が自壊し、
奴隷鉱山と聖剣利権の真実が暴かれ、
“神の奇跡”を独占してきた教会の嘘が崩れていく。
戦えない町工場職人。
捨てられることを恐れるツンデレエルフ助手。
滅亡寸前の国を背負う誇り高い女魔王。
これは、最強の武器で世界征服する物語ではない。
使い捨てにされてきた者たちが、
ちゃんと生きて帰り、
もう一度、自分の居場所を手に入れるまでの物語。
――戦争に勝つ剣より、帰ってこられる鎧を作れ。
全40話・第一部完結。