あらすじ
祖父の遺品整理をしていた拓也は、蔵の奥から一枚のレコードを見つける。
ラベルはなく、日付だけが殴り書きされたその盤に針を落とすと、聞こえてくるのはただの雨音だった。
曲でもない。声でもない。なぜ祖父は、こんなものを五十年近くも大切に隠し持っていたのか。
古い日記帳をたどるうち、その録音の夜、近所の店で火事が起き、住み込みの従業員が疑いを被ったまま姿を消していたことを知る。
祖父にとって兄のように慕っていた相手だった。
ノイズに埋もれた雨音を丹念に拾い直していくと、そこには決して聞かれてはならなかったはずの物音が――そして一言の呟きが、微かに残されていた。
真相をたどるほどに、拓也は知りたくなかった祖父の顔と、一つの事実に近づいていく。
雨の音だけが知っていた、五十年間の沈黙。その奥に眠っていたのは、救いか、それとも代償か。