あらすじ
隣人に薬を盛られた。
彼女は私を自分の部屋へ誘い込み、ソファに座っている腹の出た中年男を指して、金田社長と私はきっと相性がいいと笑った。その瞬間、私はようやく気づいた。彼女は娘のぬいぐるみを直してほしくて私を呼んだのではない。私をあの男に引き渡して、金にしようとしていたのだ。
私は彼らから離れる口実を作り、ベランダへ出て風に当たった。築三十年以上の古い分譲マンションの十三階。ビルとビルの隙間を抜けてきた風が、物干し竿に吊るされた塩漬け肉をゆらゆらと揺らしている。ベランダの隅にはいくつかの植木鉢が並び、葉は鬱蒼と茂っていて、土は湿っていた。壁際には古いプラスチックケースも置かれていた。
私はただ少し立って、気持ちを落ち着かせたかっただけだった。けれど、ふと視線を落とした瞬間、その植木鉢の奥から、白く硬直したものが覗いているのが見えた。枝葉の陰に隠れるようにして、指先がわずかに曲がり、爪の間には黒ずんだ赤い泥が詰まっていた。
それは、人の手だった。
切断面からはまだ血が滲み、暗い赤色がじわじわと土に染み込んで、植木鉢の半分を汚していた。全身が固まり、胃の奥からこみ上げるものを必死で押さえ込んだ。息が喉で止まり、誰かに首を締められているようだった。私は目がいい。フェイクの小道具やフィギュアのパーツも仕事柄いくつも見てきた。あれが玩具であるはずがなかった。
そのとき、背後から女の冷たい声がした。
「慌てなくていいのよ。あとで焼いたほうがおいしいから」