あらすじ
魔王領に一番近い街。誰もがそう呼ぶこの街に、ヴェインという名の、どこにでもいる宿屋の従業員がいる。
来る日も来る日も、魔王討伐を掲げた勇者や冒険者たちがこの街を通り過ぎていく。そして、誰一人として帰ってこない。正確に言えば、まともな姿では帰ってこない。
街の人々は、それを「魔王の恐ろしさ」だと信じている。
だが、本当の理由を知る者は、この街に一人もいない。
ヴェインは目立たない。誰の記憶にも残らない。それでいい、と思っている。彼が守りたいのは、たった一人。幼い日、泉のほとりで出会った、あの少女だけだから。
彼女の名は、フィオナ。今はもう、人間を統べる者たちが最も恐れる「魔王」と呼ばれている。
隠れて、圧倒し、送り返す。それだけで良かった。誰にも知られず、彼女を守り続けられるなら。
けれどある日、これまでとは何かが違う勇者が、この街にやってくる。
脇役のまま、最強のまま、それでも隠しきれないものが、少しずつ動き出す。