あらすじ
「こちら、お返ししますね。よっこいせっと……」
そう言って、職員の男は待合スペースのソファにおれの母親をそっと下ろした。仰向けに寝かされた体はエアコンの風で転がり落ちてしまいそうなほど軽く見えた。母親のお気に入りの淡いピンクのセーターは、ここから眺めるとやけにくたびれて、くすんで見えた。
職員は腰に手を当て、わざとらしく大きく「ふーっ」と息を吐いてから窓口へ戻っていった。おれは母親から視線を外し、正面へ向き直った。
職員は椅子を引いて腰を下ろすと、こちらを見てわずかに眉を上げた。『おや? まだいたのか』と言いたげな表情だった。