あらすじ
「あなたの力は、人を救うには曖昧すぎる」
リュミエール聖王国の神殿で、エレノア・フィーネはそう言われ続けてきた。
治癒もできない。
結界も張れない。
神託も聞こえない。
彼女にできるのは、悪夢や悲しみを砂糖細工に封じることだけ。
その力は神殿では評価されず、エレノアは「菓子作りの聖女」「偽物聖女」と蔑まれ、厨房の片隅でひっそりと暮らしていた。
そんなある日、眠れぬ病に苦しむグラシア帝国の皇帝ルシアンが神殿を訪れる。
氷の皇帝と恐れられる彼は、どんな聖女の治癒も浄化も受けつけず、眠れば必ず悪夢に引きずり込まれてしまうという。
正式な聖女たちが次々と失敗する中、最後に差し出されたのは、エレノアの作った白鳥の砂糖細工だった。
誰にも届かなかった皇帝の悪夢に、なぜか彼女の砂糖細工だけが届いた。
けれど、その悪夢に浮かび上がったのは、美しい白鳥だけではない。
雪原に立つ少女。
燃える修道院。
氷の下に沈む黒い王冠。
皇帝の眠れぬ夜には、帝国と神殿が隠してきた過去が眠っていた。
「お前を帝国へ連れていく」
初めて自分の力を必要とされたエレノアは、恐れながらも帝国へ向かうことを選ぶ。
冷たい宮廷。
夜の菓子工房。
眠れない皇帝。
そして、砂糖細工に封じられていく人々の痛み。
これは、偽物と呼ばれた聖女が、誰にも癒やせなかった氷の皇帝の悪夢に寄り添い、自分自身の価値を見つけていく宮廷ロマンスファンタジー。
傷は消えなくても、ひとりで抱えなくていい。
甘い砂糖細工は、眠れぬ皇帝に、もう一度やさしい夢を見せる。