あらすじ
二〇三五年、日本。孤独対策として導入された「家族補完制度」は、血縁に代わる“公認家族”を国が割り当てる仕組みとして社会に定着していた。しかし制度は、依存の問題と財政負担を理由に一年後の廃止が決まる。
大学生の橘日和は、十五歳から五年間、制度によって与えられた父・勝、姉・美咲、祖母のような幸枝と暮らしてきた。彼にとって彼らは「家族のような存在」ではあっても、「本物の家族」とはどこか違うものだった。そう思いながらも、日々の食卓や何気ない会話の中で築かれた関係は、確かにそこにあった。
廃止が現実となり、日和は初めて「この関係が終わる」ことに向き合う。さらに疎遠だった実の母が現れ、「血縁の家族」というもう一つの現実を突きつける。制度で結ばれた関係と、生まれながらのつながり。そのどちらが本物なのかという問いに、明確な答えは見つからない。
しかし、勝の作る弁当、幸枝との何気ないお茶の時間、美咲の変わらない言葉は、制度の枠を越えて日和の中に残っていく。やがて制度は終わり、日和は一人暮らしを始める。それでも彼らとの関係は途切れなかった。
「本物かどうか分からなくてもいい」と思えたとき、日和は気づく。五年間の時間が育てたものは、制度でも血縁でも測れない何かだったのだと。彼は次の週、また勝の家を訪れる約束をする。それが今の彼にとっての「家族」のかたちだった。