あらすじ
「この文章で、筆者が一番伝えたいことは何でしょう」
先生の問いに、健太の頭の中は真っ白になる。会ったこともない人の気持ちなんて、わかるわけがない。それより、今日の給食のこと——。
小学四年生。テストはいつも、赤いバツだらけ。返された答案を裏返して、「俺、二点。逆にすごくね?」とおどけてみせる。誰にも見えないところで、そっと紙に折り目をつけながら。
でも、健太はバカなんかじゃない。ただ、同じ黒板を見ていても、みんなと“見えている世界”が、少しだけ違っていた。同じ問題を見て、できる子は「どこが大事か」を探し、健太は「どこから逃げよう」と考える。差は、頭の良さじゃない。世界の、見え方の数だ。
塾に通う優等生・美咲の、止まらない鉛筆。その横顔を見た日から、健太の毎日が、ほんの少しずつ動きはじめる。
「点数はいい。どこで止まった?」——決して叱らない、父。
「答えを探す前に、質問を探しなさい」——図書館の、里見さん。
「めんどくさいから、後でたまらないようにしてる」——地味なのに、いつも自分より点がいい亮。
「終わったやつじゃん」——変わっていく健太を、置いていかれるのが怖い、親友の拓真。
そして、誰より先に、健太の小さな変化に気づいてしまう——紗奈。
赤いバツは、失敗の印じゃなかった。“どこで迷子になったか”を教えてくれる、地図だった。
「全部わからない」は、たぶん嘘だ。だって、名前は書けたんだから。
わからなかった一問が、ふいに“わかる”瞬間。その小さな快感を、あなたはきっと、健太と一緒に思い出す。
これは、ひとつの恋をきっかけに、“わからない”の中へ、一歩ずつ踏み込んでいく物語。一話ごとに、必ず、泣ける。読み終えたとき、あなたはきっと思い出す。同じ授業を受けていたはずなのに、自分だけがわからなかった、あの日のことを。
七人それぞれが、主人公になれる、小さな世界の物語。
「わからない」は、終わりじゃない。——それは、入口だ。