あらすじ
出産予定日まであと一週間。
臨月の結衣を残し、夫・健太は「幼馴染との旅行なんて今回だけだから」と笑って二泊三日の旅行へ出かけた。
「昔から家族みたいなものだから。」
その一言に、結衣は何も言えず笑顔で送り出す。
旅行先では、海辺ではしゃぎ、肩を並べて写真を撮り、「やっぱり一番落ち着く」と幼馴染と語り合う夫。その頃、結衣は一人で陣痛に耐え、何度電話をかけても繋がらないスマートフォンを握りしめていた。
そして、夫がいないまま、新しい命が生まれる。
「ごめん、間に合わなかった。」
土産袋を抱えて病室へ現れた夫に、結衣はもう責める言葉すら見つからなかった。
あの日、失われたのは立ち会い出産だけではない。
夫婦として積み重ねてきた信頼。
父親になる最初の一歩。
そして、「家族」の意味だった。
「家族みたいなもの」と、「本当の家族」。
その優先順位を間違えた一人の男が、取り返しのつかない代償を知るまでを描く、現代文学。