あらすじ
星まつりの夜、亡き妻の足音が帰ってくる——。
街が「星まつり」の灯火に彩られる夜。
天の川(ミルキーウェイ)を渡り、亡き人が帰ってくるという幻想的な言い伝えの裏で、築四十年の我が家には冷たい静寂だけが満ちていた。
六年前、命と引き換えに末っ子を遺して旅立った妻。
大恋愛の末に結ばれた彼女を失った喪失感から、俺の時間は止まったままだ。無職のまま部屋に閉じこもる俺に代わり、十六歳の長女がバイトに出て幼い弟妹と家計を必死に支えてくれている。
「自分など、あの日に死んでいればよかった——」
罪悪感に押しつぶされそうな深夜二時。
しんと静まり返った台所から、軽やかな包丁の音が響く。
続いて聞こえてきたのは、妻が好んでいた薄いスリッパの、懐かしい足音だった。
「あなた、一緒に行きましょう?」
星明かりの中に立つ妻の面影と、甘美な誘惑。
妻の元へ行けるならと、差し出された手を取ろうとした瞬間——妻の足音が、湿った肉塊の這いずるような不気味な異音へと変質する。
異形に連れ去られそうになる恐怖と諦念の中、俺の耳に届いたのは、障子一枚隔てた部屋からの「小さな子どもたちの重い寝息」だった。
「音」が織りなす恐怖と、大人の愛、そして止まっていた時間が動き出す親子の再生を描いた、情緒あふれる和風ホラー文芸短編。