あらすじ
「治癒も攻撃もできない聖女など不要だ」
時計職人・時任詩織、二十八歳。嵐の夜、祖父の遺した修理店で古い懐中時計をいじっていた彼女は、雷とともに異世界の豪華な広間へと召喚された。だが鑑定で告げられたギフトは【調律】――「壊れた物を直す」だけの能力。
王太子ラウルと令嬢セレスティアは彼女を「ハズレ」と嗤い、補償も帰還手段もないまま王都の外へ放り出す。手にしていたのは、彼らが「鳴らないガラクタ」と見捨てた古い懐中時計だけ。
――だが彼らは知らない。
そのガラクタこそ、数百年来この国の誰にも直せなかった国宝『時凪の懐中時計』。奏でられし旋律で、その場の時を止めるとされる魔導遺物であることを。そして詩織が、壊れた物の声を聞ける、たった一人の調律師であることを。
追放された先で出会ったのは、強面の竜人ガルド。「直せるなら十分だ」――誰にも認められなかった彼女の手を、初めて肯定してくれた言葉だった。
値切られ、見下され続けた二十八年間。それでも磨き続けた確かな腕で、詩織は壊れたものを、そして自分を嗤った者たちの「罪」までも、静かに暴いていく。
さらに、時計の蓋の裏に刻まれた祖父の名と異世界の紋章――二つの世界を繋ぐ最後の謎が、彼女を待っていた。
温かな隣人と、確かな手を取り戻した調律師の物語。ゆっくり、一つずつ。壊れたものの声を聞くように。