あらすじ
三年間、旦那様に「口に合わない」と言われ続けました。ですので、離縁状をいただいたその日に、厨房を出ました。
街道沿いの宿場町で、小さな焼き菓子の店を開きます。持ち出したのは帳面が一冊だけ。婚家で三年、誰が何を食べられないかを書き留めただけの、誰も見向きもしなかった記録です。
卵が駄目な子。祈りの月に獣のものを断つ人。甘いものが、苦くしか感じられなくなった老人。——わたくしは帳面を開いて、その方が召し上がれるものを、一つだけお出しします。
けれど、その帳面を手放した伯爵家では、その日から誰も食卓を囲めなくなっていったそうです。
わたくしは何も申しません。ただ、焼くだけです。
▼ 怒鳴らない主人公が、静かに一手ずつ勝っていく後味が好きな方へ。恋愛はゆっくりです。