あらすじ
水城イオリは、他人の声や仕草から、本人が隠している弱みや心の傷を見抜くことができる。
そして舞台では、その傷をわざと刺激し、本人の意思とは関係なく、本物の涙や怒りを引き出す。
大手芸能事務所が開く、1年間の新人俳優選抜。候補生20人のうち、正式契約を得られるのは3人だけだ。
最初の公開審査で、相手役の篠崎マヒロは、泣く場面で涙を流せずにいた。
このままでは二人とも失敗する。
そう判断したイオリは、マヒロが隠していた心の傷を利用した。
マヒロは本当に泣いた。
二人の芝居は観客全員を泣かせ、イオリは個人演技で1位になる。
だが、マヒロは激怒した。
自分の傷を舞台で使うかどうかを、イオリに勝手に決められたからだ。
ほかの候補生との課題でも、イオリは相手の弱点を利用していた。
次に何を使われるか分からない。
自分の演技を、自分で選べなくなる。
そう考えた19人全員が、イオリとの再共演を拒んだ。
演技1位。
共演希望ゼロ。
そして次の審査は、候補生同士で相手を選ぶ二人芝居。
互いに選び合わなければ、舞台には立てない。
それでもイオリは、自分の演技が間違っていたとは思わない。
誰にも選ばれないのなら、一人に選ばせればいい。
彼女が指名したのは、誰よりも自分を嫌っているマヒロだった。
他人の感情を動かす方法は分かる。
だが、自分が舞台で何をしたいのかは決められない。
これは、他人を動かすことばかり考えてきた少女が、初めて誰かから、
「あなたと一緒に演じたい」
と選ばれるまでの物語。