あらすじ
埼玉県・入間川。
四十六歳、離婚歴あり。
二人の娘とは、もう何年も連絡がつかない。
仕事だけはどうにか続けているが、朝から酒を飲み、釣りとキャンプに逃げ込む日々。歴史や寺社、土地に残る伝承を好みながら、神も仏も信じてはいない。
そんな男が、ある早朝の入間川で白蛇を見る。
それはただの偶然か。
酔いが見せた幻か。
それとも、狭山湖と武蔵野の土地に残る、名もなき記憶からの呼び声なのか。
流れる入間川。
記憶を湛える狭山湖。
小手指原に眠る戦の遺恨。
古い神社や寺、雑木林、焚火、雨、井戸、湖面。
土地に残る史実と寓話を辿りながら、男は、自らが失った家族と、見ないふりをしてきた過去に少しずつ向き合っていく。
やがて、離れて暮らす子どもの自動車事故をきっかけに、止まっていた家族の時間が再び動き始める。
これは、壊れた家族が元に戻る物語ではない。
壊れたままの人間たちが、傷を抱えながら、もう一度ともに歩くことを覚えていく物語である。