あらすじ
花火大会の警備をしていた戸田一(はじめ)は、歩道橋の上で人の流れを二つに割り、最後の一人を押し出して落ちた。
三十九年、どこの現場でも半分に割かれてきた男の、最後の願いは「もう一人、俺がいれば」だった。
目を覚ますと、俺は灰色の塊だった。
分身種(わけみ)――討伐対象にすらならない、大陸最下級の魔物。
この身体には規則がある。
一、俺は百粒でできている。
二、粒を切り離せば、分身が生まれる。
三、分身は最初に触れたものの姿になる。
四、名の無い分身は、吸い戻せる。粒も、記憶も、全部戻ってくる。
五、名前をつけた分身は、二度と戻せない。
つまり――仲間が一人増えるたびに、俺は永久に弱くなる。
強くなりたいなら、友達を消せばいい。
友達がほしいなら、弱いまま生きろ。
山の下には、すべての分身を取り戻して完全になった〈単一体〉が眠っている。
不死で、無敵で、千年ずっと独りきりのそれは、俺にこう頼んだ。
「いつか、俺を分けてくれ」
水の涸れた岩地で、滅びかけの小さな種族が俺に「助けてくれ」と言った。
生まれて初めて言われた言葉だった。
一人では何もできない。だが二十人になれば、井戸は掘れる。
これは、強くなることを諦めた魔物が、
弱いままで生き延びるために国を建てるまでの話。