あらすじ
被害者が受けた苦しみを、そのまま加害者の身体に届ける刑がある。共感刑。
けれど人と人は直接つながらない。だから間に一人、痛みを受けて運ぶ人間が要る。国家資格「受苦官」――通称、痛みの運び屋。
柊巡は、これまで三百七十四人ぶんの痛みを運んできた。
本来なら七十二時間で消えるはずのそれが、彼の中では一度も消えていない。
ある日の執行で、彼は届けるべき痛みの中に、見てはいけないものを見つける。
被害者が最後に見た「犯人の顔」。そこに映っていたのは、痛みを運んでいる自分の顔だった。
その時刻、彼は国の執行室にいた。アリバイを証明するのは、国の記録そのもの。
成立しない事実が二つ並んだ夜から、受苦官たちが一人ずつ壊れはじめる。
「あなたは三百七十四回運んで、一度も減らしていない。増やしただけだ」
制度を設計した男は、制度を止めるために、制度を動かす人間から壊していく。
痛みを預かる者と、痛みを持ち主に返す者。
どちらも正しくて、どちらも誰かを壊す。