あらすじ
宮城県の山奥にある黒淵村では、十三年に一度、「御棺送り」と呼ばれる神事が行われる。
悪いものを黒い棺に封じ、川へ送る。
その夜、村人は戸を閉ざし、棺の中にあるものを見てはならない。
名を呼んでもならない。
作業療法士・佐伯周平は、脳梗塞による右片麻痺を負った旧家の当主が、御棺送りに参加できるかを見極めるため、黒淵村を訪れる。
人の身体。
杖の傷。
家の動線。
道具の摩耗。
縄を結んだ手の癖。
佐伯は、人が暮らした場所に残る「生活の痕跡」から、そこで何が行われたのかを読み解いていく。
一方、五年前に豪雨の夜から行方不明となった妻・環は、共同体の供犠と排除を研究する民俗学者だった。
環が遺した黒い装丁の研究記録には、十三年前の黒淵村について、不可解な言葉が残されている。
――名を呼ばない。
――悪霊は、家の中にいる。
神事の夜、村おこしを進めていた青年が姿を消す。
やがて黒い棺のそばで見つかった遺体と、消された少女の名前が、村の過去をつなぎ始める。
黒い棺に入れられるから、悪霊なのか。
悪霊と呼ばれたから、黒い棺に入れられるのか。
佐伯が暴くのは、怪異の正体ではない。
人間を怪異へ変え、名前ごと消し去るために、村が繰り返してきた手順だった。
作業療法士の観察眼で、身体と暮らしの痕跡から因習村の罪を読み解く、民俗ホラー×生活鑑定ミステリー。