あらすじ
スーパーのパートと家事をこなし、夫と二人で静かに暮らす六十三歳の山下幸子。三人の子供はそれぞれ家庭を持ち、長かった子育てもようやく一段落していた。
そんな幸子が、2025年のサマージャンボ宝くじで前後賞合わせて7億円に当選する。
高級マンションも、海外旅行も、新しい車も買える。しかし幸子は、夫にも子供たちにも当選を知らせないと決めた。大金によって家族が変わり、今ある平穏が壊れることを恐れたからだ。
当選後も幸子はスーパーの特売に並び、家計簿を一円単位でつけ、古い軽自動車で夫と道の駅へ出かける。一方で、子供たちの住宅ローンや孫の進学問題を耳にするたび、秘密の口座に眠る7億円が心を揺らす。
助けるべきか、黙って見守るべきか。
秘密を守ることは、本当に家族を守ることになるのか。
誰にも言えない高級口紅を一本だけ買い、夫の何げない言葉に笑い、家族の将来を守るために遺言書を作る。これは、7億円を手にしても暮らしを変えなかった一人の女性が、平凡な毎日の価値と、自分なりの幸福の使い方を見つけていく物語。