あらすじ
すべてを持った老天下人と、何も持たぬ「影の将軍」。
乱世の濁流で「人との繋がり」を求め続けた、足利義栄の凄絶なる果て。
永禄の変の直後、病床にある天下人・三好長慶は、阿波で隠れるように生きていた青年・足利義栄を召し出す。
実績も人望もなく、ただ「足利」の血という重荷を背負わされただけの空っぽな青年・義栄。
人に必要とされたいと激しく渇望する彼は、三好三人衆の強欲や松永久秀の冷徹な思惑のただ中で、第十四代征夷大将軍として擁立され、京の都へと一歩を踏み出す。
「将軍という器になれば、人は集まり、孤独は埋まるはずだ」
――そう信じた義栄だったが、彼を取り巻くのは己の欲のために権力を貪ろうとする狼どもの群れと、互いを引き裂く嫉妬と怨嗟であった。
さらに東からは、古い秩序を容赦なく焼き尽くす織田信長の「焔」が迫り来る。
「持つとは、時を留めようとして失うことだ」
長慶の遺した言葉の真意を悟り、すべてを失って阿波へと敗走した義栄は、病に蝕まれながらも泥の中で人と触れ合い、自らの人生の「本当の答え」を探し始める――。
乱世の怪物たちと対峙し、敗者として歴史の闇に消えていった「影の将軍」足利義栄の、悲しくも美しい魂の軌跡を描く歴史群像劇。