あらすじ
[孤独の境界線]
高校を卒業する直前に、ヒカリは叔父夫婦の家を出た。
親友の日向にだけ事情を話した。
彼女が調べて渡してくれた”女性シェルターの連絡先”を握りしめて、ヒカリは夜のバスに乗り込んだ。
「ここからが、私の本当の人生」
十八歳のヒカリは、窓に映る自分にそう自分に言い聞かせた。
シェルター、ネットカフェ、カプセルホテル……
居場所を転々としながら、昼間の店員、夜の倉庫の作業。
ダブルワークで、半年がかりで「住所不定」から抜け出すことができた。
「いらっしゃいませ――」
二十歳になったヒカリは、コンビニのレジに立っていた。
ヒカリ個人として、特段に夢も野望もない、世の中にも人にもさして興味を示さない、そんな一人の女の子。
日向とは安否を気遣うやりとりがあったが、
彼女の大学生活の報告レポートみたいな、
メールを2回スル―してそれっきり。
生活苦もあった。
もう少し貯金が安定して、自分に自信がでてきたら、
友に会い、昔話も、心の底から笑ってできる気がする。
今はただ、誰にも必要とされず、誰も必要としない——それでいい。
それがヒカリの「安全」だった。
孤独は、すっかり彼女に染みついていた。
[雨のファミレス]
その夜、カスハラ対応に心身ともに削られたヒカリ。
定時を過ぎて店を出れば、アスファルトをはげしく叩く土砂降りの雨。
(天気予報にも見放されたか……)
通りかかったファミレスの明かり。
どこか私を呼んでいるようねと、ヒカリは重い足取りのまま、自虐的な笑みを浮かべた。
混み合う店内のカウンター。
案内されて座るヒカリと、隣にいた青年と目が合った。
どこかで見た顔——昼間のコンビニの常連か。
銀色の瞳で、少し派手めな、ギターケースをかかえて店に入ってくる
「あ」とヒカリは思い出して言った。
「ギターの人」
「あ、レジの人……?」
がしかし、ヒカリは警戒し、青年も前に向き直るとそれっきりだった。