あらすじ
山のふもとで祖父と二人、猟師の孫として育った少年。幼い頃から祖父に連れられ、山の掟と「願いを叶えてくれる山のヌシ様」の伝承を聞いて育った。だが十六の年、不治の病に倒れる。祖父は孫を救うためにヌシに会いに山へ入ったきり、消息を絶った。そして少年自身も、祖父の行方を知らぬまま、短い生涯を終える。
気がつくと、彼は山の中の一匹の蟻として目を覚ましていた。名前も、顔も、これまでの記憶も何ひとつ思い出せない。ただ、体に染みついた「山の掟」だけが、なぜかはっきりと残っている。
やがて彼は知る。この山には、頂点に立った者だけがなれる特別な存在――山のヌシ――がいることを。そこに行き着けば、何かが分かるかもしれない。祖父のこと。ヌシ様の正体。そして、自分がなぜ、この体で目覚めたのか。
弱く小さな蟻から、甲虫、あるいは蜘蛛へ。そこから獣へ。彼は幾度の死線と進化の分岐を越え、記憶にない祖父の背中を追うように、山の頂点を目指していく。