あらすじ
高瀬奈緒が旅館の玄関で最初に受け取ったのは、花束ではなく請求書だった。
「ようこそ風待ち荘へ。支払い期日は明日です」
番頭の笹原は真顔でそう言って、電卓を置いた。
ロビーには誰もいない。売店の温泉まんじゅうだけが、なぜかやる気のある照明を浴びていた。
奈緒は帳簿をめくり、三ページ目で天井を見上げる。
赤字、赤字、赤字。
夫の亮は横でつぶやいた。
「逆に、伸びしろしかないね」
中学生の娘は「そのポジティブ、今いちばんいらない」と切り捨て、小学生の息子はフロントで勝手に名札を作っていた。
そこには太字でこう書いてある。
こども支配人。
奈緒は深呼吸して、呼び鈴を鳴らした。
「本日より、営業立て直します。たぶん」