あらすじ
伯爵夫人エステルは、傾きかけていた伯爵家を六年間かけて立て直してきた。領地経営から使用人の管理、商会との交渉、社交界への根回しまで完璧にこなしてきたが、夫レイモンドから感謝されたことは一度もない。
結婚記念日の夜、レイモンドは病弱な居候令嬢リリアを優先し、二人きりの晩餐をすっぽかす。抗議するエステルへ、夫は平然と言い放った。
「リリアは体が弱いんだ。丈夫な君なら我慢できるだろう」
その言葉を聞いたエステルは、夫が有能な妻より、甘えてくるか弱い女性を好むのだと理解する。
それならば、望みどおりになって差し上げましょう。
翌朝からエステルは寝台に横たわり、「お水が遠くて取れませんの」「書類を見ると動悸がしますわ」と病弱な妻を演じ始める。同時に、これまで無償で引き受けてきた仕事もすべて停止した。
食材は届かず、晩餐は乾パンだけ。重要なお茶会では茶の代わりに強い酒が出され、領地の書類は山積みになる。実務能力皆無のリリアも、仕事を頼まれるたびに胸を押さえて寝込んでしまう。
ついにレイモンドは、エステルの寝台の前で膝をついた。
「頼むから、屋敷を元に戻してくれ!」
「あら。病弱な妻に働けとおっしゃるの? もっとわたくしを甘やかしてくださいませ」
妻が支えていたものをすべて失い、ようやく彼女の価値に気づいた夫。しかし、エステルが差し出したのは、復縁の条件ではなく離婚届だった。
これは、「丈夫だから」という理由で我慢を押しつけられてきた有能な妻が、夫好みのか弱い女性を完璧に演じ、自由と休む権利を取り戻す、ざまぁ満載の離婚コメディ。