あらすじ
あらすじ
地方新聞社で訃報欄を担当する記者、真壁由良(まかべゆら)は、死者の一生をわずか数百字へ縮める仕事をしている。
誰にでも愛された人。
家族思いだった人。
最期まで笑顔を絶やさなかった人。
由良は知っている。
葬儀で語られる言葉の多くは、生き残った者にとって都合よく整えられた嘘だ。
由良自身も十五年前、父親から暴力を受けて自死した弟・奏汰を、新聞社の採用作文の中で「家族の絆を教えてくれた存在」に書き換えていた。
そんなある日、埼玉県郊外で、一人の男が自宅の壁の内部から発見される。
壁には、男の両目、両耳、口の位置に合わせて小さな穴が開けられていた。
まるで死後も、家族の生活を見守り、声を聞き、話しかけ続けられるように。
男の妻は、その一週間前に病死していた。
葬儀で読まれた弔辞には、こう記されていた。
「夫はこれからも、この家の中から家族を見守り続けるでしょう」
弔辞を書いたのは、遺族に代わって故人の人生を文章にする女性、御巫透佳(みかなぎとうか)。
黒髪を肩で切りそろえた、物静かで美しい女だった。
透佳は、相手が人生で最も言ってほしかった言葉を正確に見抜く。
親を憎んでいる遺族には、無理に悲しまなくていいと告げる。
虐待を受けていた子どもには、逃げられなかったことは罪ではないと囁く。
誰にも理解されなかった者の痛みを、彼女だけが理解する。
透佳に救われた者は多い。
そして、彼女が弔辞を書いた家庭では、葬儀のあとに必ず新たな死者が出る。
仲の良い姉妹と称された二人は、互いの指を交換され、背中合わせに縫い留められる。
笑顔の絶えない母と称された女の夫は、頬を黒い糸で吊り上げられた姿で食卓に座らされる。
家族へすべてを捧げた父と称された男は、家族一人ずつへの贈り物として、肉体を分けられる。
透佳は罪を否定しない。
しかし、殺人をしているとも認めない。
「私は、弔辞の誤りを直しているだけです」
「言葉が嘘になるのは、生き残った方々が、書かれたとおりに生きていないからです」
「ですから、現実のほうを文章に合わせるんです」
由良は刑事・神余志乃(かなまるしの)とともに、透佳と過去の事件との関係を追う。
やがて昭和三十四年、昭和五十二年、平成三年に撮影された別々の葬儀写真に、現在とまったく同じ姿の透佳らしき女が写っていることが判明する。
さらに、透佳が幼少期を過ごした御巫家の火災記録には、死亡者としてこう記されていた。
御巫透佳、八歳。
現在の女は何者なのか。
死んだ妹の名を使う姉なのか。
娘の姿をした母親なのか。
あるいは、葬儀のたびに死者の代わりとなって現れる、名前のない何かなのか。
調査を続ける由良のもとへ、一通の弔辞が届く。
題名は────
そこには、まだ生きている由良の父と母、十五年前に死んだ弟、そして由良自身の最期までが、すでに過去形で書かれていた。
由良は気づく。
自分が透佳を追っていたのではない。
十五年前から、透佳の書く物語の中を歩かされていたのだ。