あらすじ
青凪総合医療センターで重大な投薬事故が起きた。妻の後輩・水城颯真が鎮静薬の投与量を独断で変更し、患者を呼吸抑制に陥らせたのだ。監視記録も電子カルテも看護師の証言もそろっているのに、颯真は副院長である美咲の陰に隠れ、「お願い券」を使って僕に責任を負わせてほしいと頼み込んだ。
美咲はためらわなかった。医療安全管理室の責任者を連れて僕の執務室に入り、アクシデント報告書を机の上へ押し出した。
「彰人、署名して。救命救急科の部長なんだから、責任を取るのは当然でしょう」
十年前、研究中の事故で失明しかけた僕を、彼女は三年間支えてくれた。結婚式の日、僕は九十九枚の「お願い券」を贈り、どんな願いでもできる限りかなえると約束した。
これまでの九十七枚は、すべて颯真を守るために使われた。そして九十八枚目が、僕の視力まで奪おうとしていた。
けれど美咲は知らない。最後の一枚が入っていた封筒には、もう願いをかなえる券などない。
残されていたのは、彼女の署名だけが空欄になった離婚届だった。