あらすじ

三年のあいだ、湯を先に沸かしてくださいと言い続けた。 布は煮てから使ってください。触れる前に手を洗ってください。 アニェスの願いは、一度も通らなかった。 この家は癒術の家だ。傷は魔法で閉じるものだと、誰もが信じている。 閉じた内側に何が残るのかを、考える人はいなかった。 三年で娘一人。跡継ぎを産めない女は要らないと告げられ、彼女は娘の手を引いて屋敷を出た。 持参金の目録に、娘の名前だけが載っていなかった。 行き先は実家ではない。産婆の親方の家だった。 湯の温度。布を煮る回数。手を洗ってから触れる順番。 誰にも聞き入れられなかった手順を、彼女はもう一度、最初から並べ直していく。 やがて、彼女を要らないと言った家のほうから、人が坂を上がってくる。 夜半に、戸を叩く音がする。 その夜、彼女は敷居を越えるのだろうか。

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小説を読もう2026/07/28
  • 現在の作品跡継ぎを産めない女は要らないそうなので、産婆になりました