あらすじ
十一歳の黒瀬湊は、兄・颯真の葬式に参列していた。
山ノ宮神社の石段下で発見された兄の死体。
原因不明の心停止。
首筋に残された、黒い線。
誰もが事故として受け入れる中、祖父・宗一郎だけは古びた懐中時計を握りしめ、呟いた。
「……また、間に合わなかった」
宗一郎が時計の文字盤の奥を開いた瞬間、世界は巻き戻る。
次に湊が目を覚ましたとき、死んだはずの兄は生きていた。
しかし、祖父の左腕は失われ、家族の記憶や病院の記録までもが、最初からそうだったかのように書き換えられていた。
生き返った兄は、本当に湊が知っている兄なのか。
なぜ町中の時計は、午後六時四十二分で止まっているのか。
そして、失われたはずの時間から湊へ届いた、自分自身の筆跡による警告。
『兄を止めろ。』
記憶も、記録も、未来から届く言葉さえ信用できない。
それでも湊は、もう一度兄を失わないため、山ノ宮神社の鳥居の向こう側へ足を踏み入れる。
これは、誰かを救うたびに何かが失われる町で、忘れられた死と、選ばれなかった時間をめぐる物語。