あらすじ
綾辻遥華は、三日続けて同じ笑い方をしていた。
学校一の美少女で、いつも人に囲まれている。誰も気づかない。気づいたのは、教室のいちばん後ろの席にいる三枝透だけだった。
透は「大丈夫か」とは聞かなかった。用事を作って資料室へ呼び出し、鍵を渡して、それだけ言って行った。
「鍵は閉めなくていい」
誰も来ない部屋と、四十五分。
翌日、遥華は告白しようとした。
だが透には、中学で罰ゲームの告白を本気にして笑い者になった過去がある。最後まで言わせたら、恥をかくのはこの子のほうだ。
だから先に終わらせた。
「答えはもう決まってる」
断ったつもりは、一度もなかった。
遥華はそれを「断られた」と受け取り、そして気づいてしまう。
「……聞かなければ、まだ終わらない」
それから半年。毎朝の挨拶も、二つ持ってくる弁当も、駅までの帰り道も、遥華は全部渡し続ける。好きの一言だけを、渡せないまま。
「明日も、お昼、行っていい?」
透にはそれが分からない。
「なんで綾辻は、俺なんかに構うんだ」
そして夜、遥華は一人で泣く。今日も言えなかった、と数えながら。