あらすじ

会社帰りの小さな惣菜屋で、同じ品へ同時に手を伸ばした優真と一樹。 歩く速さも、物を選ぶ瞬間も、マグカップを置く音さえ重なる二人は、言葉にしなくても分かり合える 心地よさの中で、静かに同じ時間を重ねていく。 しかし、一樹が仕事の参加者名簿で「蔵田和樹」という見知らぬ名前を目にしてから、二人の間に 僅かなズレが生まれ始める。 返事の間。歩き出す瞬間。重ならなくなったカップの音。 理由の分からない衝動に引かれ、一樹は次第に優真の隣から遠ざかっていく。 そんな二人が偶然たどり着いたのは、止まった時計と春の家族写真が残る、古い佐久間自転車店だった。 「動くところまでは直せる。そこから先は、乗る奴が決める」 寡黙な店主・佐久間の言葉が二人の胸へ残る一方、一樹の心は和樹へ強く引き寄せられ、優真との 大切な時間は崩れ始める。 何が二人を繋ぎ、何が引き離そうとしているのか。 誰にも答えが見えない夜の中、佐久間はただ待ち続けていた。 やがて、夕暮れの自転車店に一人の女性が現れる。 黒いレザーハットを被り、紅い自転車へ跨った彼女の名は――由真。 止まりかけた二人の時間を元へ戻すため、「春からの使者」が走り出す。

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小説を読もう2026/07/27
  • 現在の作品ここにいた時間・改訂版(前編)