あらすじ
人類の約七割が何らかの特異能力——『異能』を発現させるようになってから、およそ半世紀が過ぎていた。
社会は効率と秩序の名のもとに、極めて明快なシステムを構築した。
それが『ランク制度』である。
国家に寄与する規模の破壊力や有用性を持つ【S】から【A】。
警察や消防、インフラ企業で重宝される【B】や【C】。
日常のちょっとした手品レベルでしか役に立たない【D】や【E】。
そして、社会の何の役にも立たない、あるいは発現条件が限定的すぎて実用性のない【F】。
世界はランクによって明確に序列化され、居住区も、就職先も、さらには結婚の相手すらもランクの適性によって左右される。
それがこの世界の当たり前であり、逃れられない絶対的な法則だった。
異能の優劣が個人の価値や社会的地位をそのまま決定づける、完全実力主義の社会。
その頂点を目指す精鋭たちが集う私立嶺陰学園に、最底辺の「Fランク」と認定された転校生・白川がやってくる。
高ランクの異能者たちが絶対的な権力を握り、弱者が身を潜めて暮らすこの学園で、白川の存在は異彩を放っていた。
異能の才能に恵まれず、ドジで空気が読めない彼女は、周囲からどれほど理不尽な扱いを受けても、いつもニコニコと能天気な笑顔を浮かべて受け流してしまう。
そんな白川の周囲では、なぜか奇妙な出来事が頻発するようになる。
窓枠に貼られた小さな手鏡、置き去りにされたダンボール箱、校舎の隅へ移動されたゴミ箱——誰もが単なる「ドジな転校生が無意味に起こした奇行」だと気に留めなかった。
しかし、その一つひとつの無邪気な振る舞いは、まるで精密な時計の歯車のように、静かに、確実に校内の噛み合わせを変えていく。
学園の秩序を揺るがす不吉な噂と、少しずつ歪んでいく日常。
甘いイチゴの香りを漂わせる少女が、その笑顔の裏に何を抱えてこの学園へやってきたのか、まだ誰も知らない。