あらすじ

離縁を告げたのは、夫ではありませんでした。 義母が書面を読み上げるあいだ、隣の部屋で椅子の鳴る音がしました。 扉の下に、影がありました。 それきり、その人は入ってきませんでした。 理由は、誰からも説明されませんでした。 いまわたくしは、北の港町で乾物と香辛料の目利きをしております。 袋の匂いと重さで、湿った荷を選り分ける仕事です。 港の人は、わたくしをブラントの奥様と呼びます。 違います、と言いそびれたまま、二年が過ぎました。 ひとつだけ、屋敷とつながったままのものがあります。 義母の膝の薬に使う草を、いまも春と秋に乾かしております。 頼まれてはおりません。 給金から代金を引いてもらって、船に乗せております。 そこへ、王都の紋章をつけた馬車が迎えに来ました。 夫は言います。 親族を黙らせるまでの二年だった。 待たせてすまなかった、と。 けれど、待っていろとは、一度も言われておりません。 この港には、二十歳年上の商人がおります。 わたくしの手を止めさせず、何も尋ねない人です。 決めるのはあなたです、としか言いません。 今年の薬草は、もう乾き上がりました。 札を書けば、あとは船に乗せるだけです。 その札に何と書くのか、わたくしはまだ決めておりません。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2026/07/27
  • 現在の作品戻すおつもりで手放したのですか?品物ではないのですけれど