あらすじ
ある日突然命を落とした、ごく普通の会社員・相馬ユウ。
目を覚ますと、そこは異世界へ転生する者が集められる「女神の案内所」だった。
「あなたには最強の古代術式《ブラックホール》を授けます。」
そう言われて期待したユウだったが、説明を聞いて愕然とする。
ブラックホール術式は、重力を操る超高等魔法。しかし最終奥義を使えば街一つを消しかねず、時間の流れまで狂わせる危険な代物だった。
「……いや、こんなの気軽に使えるわけないだろ。」
結局、普段は《シュバルツ半径》や《イベントホライズン》といった重力制御術しか使わないことを決意する。
そして王国へ召喚されたユウを待っていたのは、魔王討伐でも勇者パーティーでもなかった。
王様が取り出したのは――巨大なサイコロと一枚のフリップ。
「勇者殿。本日の目的地はこちらです。」
「……え?」
コロコロと転がるサイコロ。
出た目は「温泉村」。
「魔王城へ向かうんじゃないの?」
「もちろん向かいます。」
「ですが、まずは温泉村です。」
「なんでだよ!」
こうして始まったのは、目的地だけ決まっていて、道中はすべて運任せという前代未聞の異世界旅。
港町では海竜祭りに巻き込まれ、エルフの森では迷子になり、ドワーフの鉱山では坑道工事を手伝い、温泉ではのんびりしていたら魔物退治を頼まれる。
時には誘拐された令嬢を助け、時には奴隷商から身柄を引き受けた少女の人生を変え、気が付けば世界中に知り合いが増えていく。
それでも主人公は今日もぼやく。
「寄り道ばっかりじゃねぇか。」
「……まあ、旅ってそんなもんか。」
ブラックホール級の力を持ちながら、普段は飯を食べ、温泉に入り、困っている人を放っておけず、サイコロ一つで世界中を巡る異世界ロードムービー。
次に待つ街も、事件も、出会いも――すべてはサイコロだけが知っている。