あらすじ
宮廷魔導技師――王宮工廠に仕える技師の最高位。その登用試験に、王都の下町で三代続く機巧修理店の主、ニクラス・カルデン(二十四歳)が願書を出した。
合格するつもりはない。宮廷技師でありながら下町で果てた祖父の霊前に「試験場の空気を吸ってきた」と報告するだけの、記念受験である。……そのはずだった。
整備実技で彼に割り当てられたのは、受付最後尾の残り物、廃棄寸前の複座訓練機・十三番。仕込みの課題のほかに本物の持病を抱えた、審査官すら見放すハズレ機である。
ニクラスは課題そっちのけで機体まるごとの脈を整えてしまい、想定外の事態に評価は「査定保留」。
そして騎士学院首席、侯爵令嬢フレデリカ・アイゼンガルテンが壇を降り、並み居る学院出のエリートを素通りして、無名の修理屋の前で立ち止まる。
「あなた、後席に乗ってくださる?」
どよめきが会場を覆った――――。
誰も乗り手のいない旧式複座と、誰も選ばれると思わなかった記念受験者。
二人乗りの鋼騎士(シュタールリッター)――正式名称・制式魔導装鎧――が呼び覚ますのは、十五年前に封印された観閲式事故の真実と、祖父の名誉と、彼女の亡き母の機体――。
戦わない、作らない、操縦できない。直す腕と聴く耳だけの男が、王国でいちばん高貴な背中を預かる。
鋼と油と、恋の話である。