あらすじ
勇者は強かった。
どんなに強靭なモンスターであろうとも瞬殺することができる戦闘力を持ち、苦戦することもなかった。
勇者の活躍により、困っている人々は救われ、旅の先々で問題は解決された。
人々から感謝をされ、順風満帆──しかし、勇者はとても思慮深かい人間であった。
そんな日常の──当たり前の光景に、徐々に疑問を次第に持ち始める。
「弱いな……」
横たわっているモンスターの亡き骸を見詰めながら、勇者はふと考えたものである。
「こんなにも弱き者が、果たして人類の脅威になんて、なり得るのか……?」
考慮の一つの要素として自分の強さなどは入れておらず、勇者には理解が出来なかった。
弱気者たち──。
そんなモンターに脅かされる人間とは?
単純に、そんな疑問が勇者の頭の中に浮かんだものである。
勇者としてモンスターたちを倒すことは使命であり、天命だ。そのことに何の迷いもない。人間の為に邪悪な者たちを退けていくことが正義であることは、勇者にも分かっていた。
だが──本当にこれで良いのだろうか?
あまりにも簡単過ぎる。
モンスターは、勇者にとって取るに足りない存在であった。
──弱過ぎたのである。
そこに、勇者は疑問を持たずにはいられない。
ある種、それは隙とも呼べるものであった。
些細なもので、通常なら気にも止めないようなこと──しかし、前線で戦う勇者であるからこそ、それが大きなものに思えてならなかった。
本当に、こんな弱き者を一方的に嬲り殺して良いものなのだろうか──?
勇者は倒したモンスターの前にしゃがみ込み、苦悶の表情を浮かべる亡き骸を見詰めた。
「モンスターたちは何を考えているのだろう。こんなにも弱くて、非力で……それで、何をしたいのだ……?」
既に生命が断たれたモンスターの亡き骸は、そんな勇者の疑問の声に答えてはくれなかった。
だから、勇者は頭を悩ませたものである。
このままモンスターを倒して良いのだろうか──?
それは、一方的な虐殺になるのではないか──?
『人間のため』という大義名分があれば、何をしても良いというのだろうか──?
様々な疑問が、勇者の頭の中を巡ったものである。
「……そうだ……」
──そして、その思考は、とある奇抜な発想を導き出すのであった。
「モンスターについて、知れば良いのだ」
勇者は拳を握り、天に向かって突き上げると決意を表明するかのように叫んだ。
「モンスターの側について、モンスターになろう。そうすれば、モンターの思考回路というものが知れるじゃないか!」
──簡単な話であった。
脆く、儚い存在であるモンスターを壊滅させることは勇者にとって雑作もないことであった。何時でも壊滅させられる。
だから、少しそれまで時間を与えることにした。
勇者がモンターとなり、モンター側の立場が分かるまで──。
勇者の中で方針が纏まり、世界の救済は二の次となった。
「……人類を救うのは、それからでも良いではないか!」
こうして──人類の最大の敵が、生まれることになるのであった。