あらすじ
妹の余命はもう長くない。現代医学が匙を投げた自己免疫疾患。既存の薬はすべて効かず、残された道はただひとつ——「毒」を「薬」に変える、極限の用量制御だけだった。
だが、人体実験など許されるはずもない。研究費は打ち切られ、大学からも追われた薬学徒・九条蒼真は、ある事実に辿り着く。世界中の製薬企業と研究機関が共同開発した、全分子リアルタイム演算エンジン「PANACEA」——それは表向き、ただのVRMMOとして売られていた。
プレイヤーの99.7%が戦闘や魔法に夢中になる中、彼が選んだ職業はたった0.3%しか選ばれない「薬草採取人」。ゲームに用意された安全な回復薬になど興味はない。彼が見つめるのは、誰も見向きもしない毒草の中に眠る、致死量のコンマ数パーセント手前という極小の“答え”だけだ。
プレイヤーネームは「Dose(用量)」。
冷徹な計算と精密な観察だけを武器に、彼は「絶対安全」を掲げる巨大医療組織と静かに対立しながら、誰も救えなかった患者たちを一人、また一人と救っていく。
毒か薬かを分けるのは、成分ではない。
——量だ。
これは、たった一人の妹を救うために、世界の理を書き換える男の物語。