あらすじ
「君を妻として扱うつもりはない。家のことは、任せる」
初夜にそう言い渡された伯爵夫人エステル。泣いても数字は変わらない。けれど、書けば数字は残る。
だから彼女は三年間、ただ帳簿をつけ続けた。一銭も違わず、宛先の通りに。愛人へのドレス代も、視察記録のない十七泊も、毎月一日の花代・金貨一枚も。
そして三年目の春。夫は婚姻無効を申し立てるため、王室財務院の監察官を連れて帰ってくる——家政の乱れを、妻のせいにするために。
「三年分、ございます」
磨き上げた台車に、帳簿十二冊。告発しない、騒がない。ただ事実を並べるだけの、静かな清算が始まる。