あらすじ
穏やかだが、酒に溺れる父と、不安定な家庭の中で育った主人公、悠司。
父を失った後も、悠司の中にはひとつの問いが残り続けていた。
――あの時、父を助ける事が出来れば
その答えを探すように救急救命士となった悠司は、昇任して隊長を任されるようになる。
傷病者の状態を見極め、搬送先を選び、家族へ説明する。
ときには不安や怒りをぶつけられ、ときには搬送を拒む相手を説得しながら、悠司は現場の責任を背負っていく。
そんなある日、悠司たちは、飲酒を繰り返す父親と、その父を支える高校生の息子が暮らす家へ出場する。
何度も繰り返される救急要請。
父を見捨てきれず、ひとりで家庭を背負おうとする少年。
その姿は、かつての悠司自身とあまりにもよく似ていた。
自身の役割は、目の前の傷病者を医療へつなぐこと。
家庭の問題にまで踏み込むべきではない。
そう分かっていながら、悠司は次第にその家族を他人として見られなくなっていく。
さらに、疎遠になっていた幼なじみとの再会が、悠司の心を揺らす。
避け続けてきた過去。
家族を持つことへの恐れ。
そして、自分も父と同じ人間になるのではないかという不安。
救急現場で出会うさまざまな家族、共に働く仲間、そして自分の過去を知る幼なじみとのつながりの中で、悠司は少しずつ、自分が本当に恐れていたものと向き合っていく。
家族とは何か。
父親とは、どのような存在なのか。
人は、親から受け取れなかったものを、誰かに与えることができるのか。
これは、父を失ったひとりの救急救命士が、命の現場を通して、自分なりの家族の形を見つけていく物語。