あらすじ
「土しか視えない目など、宮廷には要らん」
十五年勤めた宮廷測地士レヴィンは、たった一枚の紙で職を失った。
彼の《地脈視》に視えるのは、地下水脈と地盤の様子だけ。剣も出ない。火も出ない。
ゴミスキルと笑われ、彼が国の危機を警告した報告書は、読まれもせず書庫で腐った。
流れ着いたのは、王国の最果て。
五十年前の大魔法の失敗で倍に広がった毒の沼と、痩せた土にしがみつく三十人ばかりの村。
だがレヴィンには、間縄と水準器と杭がある。
地面の下を視て、線を引く。三段の沈殿池で毒を分け、越流堤で水の勢いを殺し、水門で水位を区切る。
土を動かす力はない。掘る力もない。
彼にできるのは、水がどこを通りたがっているかを読んで、その通り道を地図にすることだけだ。
――土は、嘘をつかない。
毒沼が澄んだ田になり、痩せ地が王国一の穂を実らせ、村が港になる。
人が集まり、水路が伸び、いつしかそこは運河都市オルテガと呼ばれるようになった。
その頃、王国は死にかけていた。
二年続いた渇水で大河が干上がり、穀倉は塩を吹き、飢えた民が国境を越えて流れてくる。
剣も魔法も、乾いた大地の前では一滴の水も生まない。
そして王都から、使者が来る。
かつて、レヴィンを切り捨てたその国から。
これは、剣も魔法も持たない男が、測量と治水と物流だけで国を造り、
自分を捨てた祖国と向き合う物語。